初詣の列に並び、賽銭を投げ、さあ今年の運試し——と引いたおみくじが「凶」。この瞬間の、周囲に見せられないまま静かに紙を折りたたむ気持ちは、日本人なら一度は経験があると思います。今日はそのおみくじについて、どこから来たのか、凶とどう付き合えばいいのか、結ぶのと持ち帰るのはどちらが正しいのか、まとめて解説します。結論だけ先に言うと、凶はそんなに悪いものではありません。
おみくじのご先祖さま——千年前の「番号付きの詩」
おみくじのルーツとして語られるのが、平安時代の天台宗の高僧・良源、通称「元三大師」にまつわる伝承です。良源に由来するとされる百本のくじには、番号ごとに漢詩が割り当てられ、参拝者は引いた番号の詩から神仏のお告げを読み解きました。この「観音籤」と呼ばれる形式が、現在のおみくじの原型と言われています。
つまりおみくじの本体は、もともと吉凶のスタンプではなく「詩」でした。いまのおみくじにも和歌や漢詩が載っているのはその名残です。大吉か凶かだけ見て詩を読まずに畳んでしまうのは、実は一番おいしい部分を残して席を立つようなもの。次に引いたときは、ぜひ歌の部分まで読んでみてください。恋愛や待ち人の項目より、よほど含蓄のあることが書いてあったりします。
大吉と凶のあいだ——順番は神社仏閣ごとに違う
おみくじあるあるの筆頭が、「中吉と小吉、どっちが上?」問題です。実はこれ、明確な全国統一ルールがありません。吉凶の種類も並び順も、神社仏閣ごとに伝統が異なるからです。吉が大吉の次に来る所もあれば、中吉より下に置く所もあります。気になる場合は、その社寺の授与所で聞くのが確実です。
凶の割合も同様で、これも社寺によってまちまちです。凶をほとんど入れない所もあれば、昔ながらの比率を守って凶がよく出ることで知られる所もあります。つまり、凶を引いたからといって、あなたの運が全国平均より悪いとは限りません。単にその社寺が正直者なだけかもしれないのです。
「凶」の前向きな読み方
それでも凶を引くと、いい気分はしないものです。そこで昔から伝わる読み替えをいくつか紹介します。
まず「凶は、これ以上悪くならないという知らせ」という考え方。運勢を波と見るなら、凶は波の底です。底にいるということは、ここから先は上がるだけ。実際、おみくじの凶には「今は耐えるとき、時期を待てば開ける」という趣旨の言葉が添えられていることが多く、絶望の宣告ではなく「今は無理をするな」という助言として書かれています。
もうひとつは「凶は戒めの処方箋」という読み方です。大吉は読んだ瞬間に気が緩みますが、凶は身を引き締めてくれます。年の初めに「調子に乗るな、足元を見ろ」と言ってくれる存在は、考えてみれば貴重です。うれしくはないけれど、役には立つ。凶とはそういう距離感で付き合うのがちょうどいいと思います。
結ぶ?持ち帰る?——作法の正解
「凶は境内に結んで帰る」というのはよく知られた習わしですが、実は持ち帰っても問題ないとされています。結ぶ習慣は「神仏とのご縁を結ぶ」という語呂合わせ的な信仰から広まったもので、絶対のルールではありません。凶を結んで悪運を置いていく、という考え方も、持ち帰って戒めとして読み返す、という考え方も、どちらも昔から行われてきました。
利き手と逆の手で結ぶと困難な行いをしたことになり凶が吉に転じる、という言い伝えもあります。作法に迷ったら、境内の案内に従うか、自分が納得できるやり方を選べば大丈夫。おみくじは試験ではないので、減点はありません。ひとつだけ実務的な注意を挙げるなら、指定された場所以外の木の枝に結ぶのは樹木を傷めるので、みくじ掛けが用意されている場合はそちらへ。
「待ち人」「失せ物」——おみくじ項目ミニ辞典
おみくじの下半分に並ぶ、あの小さな項目たちも読み解いておきましょう。意外と誤解されている言葉が多いのです。
- 待ち人: 恋人の意味に取られがちですが、本来は「あなたの人生に転機をもたらす人」全般を指します。恩師かもしれないし、仕事の相手かもしれません。「来たる、便りあり」なら朗報です
- 失せ物: なくした物のこと。「出づ、低い所」など、見つかる見込みと場所のヒントが書かれます。心当たりの引き出しを開けたくなる項目
- 旅立ち: 旅行や引っ越しなど、移動ごと全般の吉凶。昔の旅は命がけだったので、独立した項目になるほど重要でした
- 商い: 商売やお金のやりとり。「売り買いともに利あり」なら景気のいい一枚です
- 争い事: もめごとや勝負ごと。「勝ちがたし、和解せよ」のように、勝敗より収め方を諭してくることが多いのが味わい深いところ
- 縁談: 結婚に限らず、縁組み・提携の話。「人に任せてよし」など、進め方の助言がつきます
こうして眺めると、おみくじの項目は昔の人の心配ごとリストそのものです。旅、商い、失せ物、争い。時代が変わっても、人の心配の骨格はほとんど変わっていません。だから待ち人の欄は、推しの供給予定として読んでも、だいたい成立してしまうのです。
毎日引ける「現代のおみくじ」もあります
おみくじの楽しさの核は、「今日の自分に、外から言葉が届く」という体験です。自分で選んだ言葉ではないからこそ、思いがけない角度から刺さる。この体験は初詣まで待たなくても味わえます。
当サイトの今日の吉日占いには、毎日引けるおみくじのミニゲームが付いています。今日という日の暦をじっくり眺めたいならこよみのしらべを。「番号付きの詩から言葉を受け取る」というおみくじの原型体験に近いものなら、カードから言葉を受け取るAIタロット占いも、実は遠い親戚のような遊びです。千年前の参拝者と同じ楽しみを、スマホで一杯どうぞ。