「今日は一粒万倍日と天赦日が重なる最強開運日!」——SNSやニュースでこのフレーズを見かけて、財布を新調したり、宝くじ売り場に並んだりしたことはないでしょうか。ところで、その吉日、誰がどうやって決めているのか考えたことはありますか。抽選でも、どこかの偉い人の会議でもありません。実は暦と干支から機械的に計算で決まっています。今日はその仕組みを、からくり図解のつもりで開いてみます。
吉日の正体は「暦注」——カレンダーの注釈たち
まず土台の話から。日本の伝統的な暦には、日付のほかに「この日はこういう日」という注釈がびっしり書き込まれていました。これを暦注と呼びます。大安や仏滅でおなじみの六曜も、一粒万倍日も天赦日も、みんなこの暦注の仲間です。
暦注の多くは、その日に割り当てられた干支(十干十二支)や、季節の区切りである二十四節気との組み合わせで決まります。つまり吉日カレンダーとは、いくつかの計算ルールを1年分回した出力結果なのです。占い師の霊感ではなく、アルゴリズム。この時点で少し親近感が湧いてきませんか。
一粒万倍日:「籾ひと粒が万倍に実る」日
一粒万倍日は、「一粒の籾をまけば万倍に実って戻ってくる」という意味の吉日です。何かを始めるのに良い日とされ、財布の新調、開業、習いごとのスタートなどの日取りに人気があります。逆に、借金やケンカのような「増えてほしくないこと」には向かないと言われるのがおもしろいところで、万倍になるのは良いことも悪いことも、という理屈です。
決まり方は、節気で区切った月(節月)と、その日の十二支の組み合わせ。月ごとに「この十二支の日が一粒万倍日」というルールが定められていて、それに当てはまる日が自動的に吉日になります。十二支は12日で一周するので、一粒万倍日は毎月何日もやってきます。月に4〜7日ほどあるのが普通で、実はそれほどレアな日ではありません。「今月もう終わっちゃった」と焦る必要がないのは、吉日の優しいところです。
天赦日:年に数回だけの「最上の吉日」
一方、レア度で吉日界の頂点に立つのが天赦日です。「天がすべての罪を赦す日」とされ、暦の上では最上の大吉日。何を始めても良い日とされます。
こちらの決まり方は、季節とその日の干支の組み合わせです。春夏秋冬それぞれに「この干支の日が天赦日」という決まりがあり、干支は60日で一周するため、条件が揃うのは年に5〜6回程度しかありません。この希少性が「天赦日」ブランドの源泉です。そして年に数回しかない天赦日と、月に何日もある一粒万倍日は、当然ときどき重なります。それが冒頭の「最強開運日」の正体。仕組みを知ると、あの煽り文句も「今年数回の干支の巡り合わせですよ」という、わりと趣のあるお知らせに見えてきます。
寅の日、巳の日、不成就日——脇を固める面々
吉日カレンダーには他にも個性派が揃っています。寅の日は「虎は千里を行って千里を帰る」の言い伝えから、出したお金が戻ってくる金運の日。巳の日は蛇が財運の神様の使いとされることから、こちらも金運の日です。どちらも十二支なので12日ごとに巡ってきます。お財布を新調したくなったら、お財布金運診断で相性を見てから吉日を選ぶ、という遊び方もできます。
逆に、何をしても成就しないとされる「不成就日」という凶日も存在します。せっかくの一粒万倍日に不成就日が重なってしまう日もあり、こうなると解釈は人それぞれ。「打ち消される」と見る人も、「気にしない」と割り切る人もいます。もともと吉凶の体系が違う暦注同士なので、正解はありません。
ところで大安・仏滅はどう決まる?——六曜のはなし
吉日の話をするなら、最古参の人気者・六曜にも触れないわけにはいきません。大安、仏滅、友引、先勝、先負、赤口。結婚式は大安、葬式は友引を避ける、という形でいまも冠婚葬祭の日取りに影響力を持っています。
六曜の決まり方は、暦注の中でもとりわけ機械的です。基本は旧暦の月と日を足した数を6で割った余りで決まる、という単純な循環。だから旧暦では毎月同じ日が同じ六曜になるのですが、現在のカレンダー(新暦)に写すと月の切り替わりで循環が飛ぶため、規則性が見えにくくなり、かえって神秘的に映るという効果を生んでいます。
意外に思われるかもしれませんが、六曜が庶民のカレンダーの主役になったのは比較的新しく、明治の改暦以降に広まった流行という側面があります。仏滅という字面から仏教由来と思われがちですが、仏教の教義とは関係がなく、字も後から当てられたもの。つまり六曜は「古来の掟」というより「よくできた語呂の文化」で、大安に安心し仏滅に身構えるのは、私たちが物語を愛する生き物だからです。日取りの縁起は、信じ込むものではなく、たしなむくらいがちょうどいい距離感だと思います。
吉日との上手な付き合い方
正直なところを言えば、吉日はあくまで昔の暦の文化であり、科学的な根拠のあるものではありません。ただ、それでも吉日カレンダーが現代人に愛されているのは、「始める口実」をくれるからだと思います。
ダイエットも、貯金も、勉強も、いちばん難しいのは始める日を決めることです。「いつか」は永遠に来ません。そこに「今日は一粒万倍日」という外部の締め切りが現れると、人は不思議と動けます。吉日は未来を保証する魔法ではなく、背中を押してくれる文化装置。そう考えれば、迷信と切り捨てるにはもったいない発明です。
今日がどんな日かは、今日の吉日占いで毎朝チェックできます。六曜や月齢まで含めてじっくり調べたい日はこよみのしらべを、生まれ持った星と方位から見たい方は九星気学占いをどうぞ。カレンダーの中に眠っている千年ものの文化を、日々のスパイスとして楽しんでください。